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照達が帰って数分後、
俺が握っていたAの手がかすかに動いた気がした。
『…!A、?大丈夫?分かる、?』
「……っ…だれですか…」
分かっていたことなのに、
頭では理解していたはずなのに。
何故だろうか。全くもって頭が追いついていない。
『っ…俺だよ!亮平だよ!』
なんて言ったってAは覚えてるはずもなく、ただ非常に怖がっていた。
産まれたての子鹿のようにブルブル震えて、やだ、離れて、を繰り返していた。
その光景を見て耐えれる訳もなく、
少し飲み物を買ってくると嘘をつき病室を後にした。
『……っ…』
大切な人に忘れられたという事実だけが残って、
どうしようもない悲しみと、涙が溢れ出した。
お医者さんはAが目覚める前にこういっていた。
「初めは彼女は動揺していると思います。
なので、優しく接してあげてください。」
亮平だよ、なんて詰め寄っている時点で優しくないじゃないか…
忘れられるということがこんなにも辛いなんてさっきまでの俺なら思わなかっただろう。
・
涙をふいて落ち着いた頃、水を買って病室に戻った。
彼女はまだ震えていて、悪者を見るかのように俺を見た。
けれど、Aにゆっくり近ずいてAの手を取り、
ひとつずつ順番に説明して言った。
『…俺の名前は阿部亮平っていいます。
職業は…人の前に立つ職業をしています。
Aさんが、ここで入院してるって聞いて心配して来ました。
……Aさんとは"仲がいいお友達"です』
彼女に1番大きな嘘をついたのは初めてかもしれない。
冗談とかはたまに言っていたが、こんなに大きく重大な嘘をつくことは初めてだった。
"お友達"
それが俺とAとの関係に今名前をつけると、最適な答え。
恋人、なんて言ってしまえばAが罪悪感を抱いてしまう。
それだけは避けたかった。
『Aさんは、事故で頭を強くうって記憶が少し無くなっちゃいました。無理して思い出さなくていいので、、
一緒に乗り越えていきませんか??』
「……自己紹介必要ですよね…
胡桃Aです。阿部亮平さん。
私、失った記憶を取り戻したいです。
手伝って欲しい…とそんな迷惑をかける言葉は言わないので…少しだけお力を貸していただけないでしょうか、?」
亮平!と呼んだくれたあのころのAはどこにも居なくて、阿部亮平さんとフルネーム。
この5年間を失った代償は大きく、それなりに時間はかかりそうだと直観的に感じた。
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作者名:蒼空 | 作成日時:2024年3月25日 21時