Brighter Moment (ページ16)

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木村 side

あの景色は忘れたくても忘れられない。

俺の家は元々母子家庭だった。お父さんは浮気をして家を出ていったらしい。

母親、妹。そして俺の３人家族。

初めは優しい母親だったけど、また男関係で崩れていった。

いつの間にか、始まってしまった母親からの虐待。俺ら兄妹は必死に我慢するしかなくて、週1回だけ、夕方から母親が居ない日に2人で散歩するのを楽しみに生きてきた。

今日はその母親が居ない日。
一日学校も頑張って帰って、玄関のドアを開けた時、見たくもなかった光景が広がっていた。

妹の体には包丁が突き刺された跡がいくつもあって、母親は自分で自分の心臓に突き刺したようだった。

俺が13年間過ごした家は血の海になっていた。

誰か強盗みたいなのが入って殺られたって思ってもおかしくは無かったのに、俺には母親がやったと分かってしまった。

そこから、ご飯の味もしなくて、夜も寝られない児童相談所での本格的なな暮らしが始まろうとしていた。

いっそ俺の事も……なんて思う日も少なくはなかった。

安「柾哉くん、ここを出ておうちみたいな所で暮らすのはどうかな。」

ある日言われたこの言葉。

おうちみたいな所……

もう一度家族に会いたい、大っ嫌いな母親と、大好きな妹に会いたい。

そんな気持ちで頷いた。

もちろん、2人はいなかったけど、優しそうなお兄さんが出てきた。

目の前でどんどん事が進んで、児童相談所の安藤さんともお別れした。

通された部屋はちょっと憧れていたような個室だった。

アパートにはそんな部屋はなくて、こんなに綺麗に整頓された部屋も、ふかふかのベッドも初めてだった。

簡単に持ってきたものを片付けて、階段を下りると、何かを作っているらしかった。

出されたものは親子丼。

こんなものは好きじゃない、なんて反抗的に考えてみたけど、味はすごく美味しくて、……よなさんの優しさを感じた。

よなさんの言葉と優しい味でいつの間にか涙を流していて、その時に気づいた。

俺、そういえばほとんど泣いたこと無かったな。

ほんとはすごい怖かった。妹を守れなかった自分も憎かった。

誰かにぎゅってして欲しかった。